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ホテルの部屋に入った、俺は。
入口で立ち尽くしていた。
「お茶でも飲む?」
そう言いながら、美佐は。
小さなカップに、インスタントコーヒーを入れた。
俺と美佐は、窓際にある小さな円テーブルを挟んで。
向き合って、椅子に座った。
「突然来るなんて、ビックリしたよ……」
イヤミではなく、俺は。
美佐の行動に、感心していたのだ。
当事者でありながら、不謹慎だが。
美佐の覚悟は、本物だと思った。
「……ねぇ、ひろ。もう……ダメならダメで仕方ないとは思うけど……」
美佐の顔は、言っている言葉とは違って。
仕方ないと思っているようには、見えなかった。
「やっぱり、もうダメなの?……わたし、理由が知りたいの」
美佐は、落ち着いた言葉で。
ゆっくりと、俺を見つめながら話す。
俺は、美佐をまだ愛していた。
もし、美佐が。
東京に来て、俺と暮らすと言ったら。
俺は、美佐ともう一度やり直すべきではないのか?
しかし。
そのときの俺は、もう。
以前のように、素直に美佐を愛する自信がなくなっていた。
俺は、気づいてしまったのだ。
結局、俺はずっと。
美佐に、裏切られ続けていたということに。