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部屋に入る。
そこには、恭子がテレビを見ながら俺を待っていた。
「あっ、おかえり!逢いたかったよ、ひろ!」
恭子は、満面の笑みで。
俺に、抱きついて来た。
俺は、恭子の髪を優しく撫でながら。
恭子をギュッと抱き締める。
久しぶりに嗅ぐ、恭子のニオイが。
俺に、安心感を与えてくれる。
俺には、結局。
恭子しかいないのだ。
俺は、久しぶりに恭子の唇を奪いながら。
そんなことを考えていた。
江古田の街を、恭子と手を繋いで歩く。
今夜は、恭子の部屋で。
恭子を抱きしめて、ゆっくり眠ろう。
きっと、これで良かったんだって。
俺は、そう思い込むことにした。
夏のイベントが終わって、技術部に配属された俺は。
毎日、不規則な生活を送っていた。
見習いとはいえ、朝4時、5時の出社は当たり前で。
朝早い仕事ほど、夜も遅いのだ。
遅く終われば、次の日はゆっくりだと良いが。
そういうことばかりでもないのが、俺たちの仕事だった。
そんな生活のなかで、俺は。
恭子と一緒に過ごしている。
しかし、俺は。
まだ、恭子に美佐と別れたことを伝えていなかった。
タイミングを逃した、というわけではないが。
なぜか、恭子に伝えるのが惜しい気がしていたのだ。