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俺は、美佐の髪を優しく撫でて。


そのあと。


ゆっくりと、美佐の両肩を押し戻した。


美佐が、驚いたように俺の顔を見つめていた。


俺は、そんな美佐と目を合わせられなかった。



そのとき、美佐が口を開いた。


「ごめんね、ひろ……」


美佐の言葉が、俺の胸に突き刺さる。



どうして美佐が謝るんだ!


悪いのは俺なのに。


謝るとしたら、俺のほうなのに……。



しかし。


俺は、そんな感情を必死で押し殺して。


美佐に、冷静に向き合った。



「もう、やめよう……。俺は、もう……」



美佐は、そのとき。


俺の目を見ながら、ニッコリと笑った。


そして、涙声で。


俺に、こう言った。


「今まで、ありがとう!楽しかったよ、ひろ……」



駆け出した美佐を、一瞬追いかけようとした俺は。


次の瞬間、その思いを必死で思い留めた。



いいんだ、これで……。



しばらくの間。


気が抜けたように、その場に立ち尽くしていた俺は。


崩れ落ちるように、ベンチに座る。



ビルとビルの間の、切り取られた空を見上げる。



俺は、最低だ……。


俺は、本当に取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。


そして、俺は。


ベンチに座ったまま、激しく泣いた。