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「あたし、大阪に帰ることにしました。彼とは、やっぱり離れたくないから……」
やっぱり、そうなんだよな、奈々美……。
「ごめんなさい、ひろ。本当に、ありがとう。……さようなら」
俺は、奈々美の言葉を聞きながら。
激しい、胸の痛みを感じていた。
やはり、俺は。
奈々美にふさわしい男には、なれなかったんだ……。
俺は、顔も知らない奈々美の彼氏に嫉妬していた。
そして。
確かな敗北感を、いま感じていた。
俺は、呆然としながら。
震える手で、マルボロのソフトパックから一本取り出す。
100円ライターで火を点けながら、俺は。
いつの間にか、涙を流している自分に気づいた。
俺は、奈々美の愛が欲しかった。
美佐や恭子を捨ててしまっても、良いとまで思った。
でも、もう……。
マルボロの灰が、いつの間にか床を汚していた。
少し、時間が経ってから。
俺は、冷静に奈々美の気持ちを考えた。
奈々美は、すべてを捨てて彼氏を選んだ。
その潔さに、俺は。
変な話だが、少し感動していた。
そして。
そんな彼氏が、とても羨ましかった。
きっと、奈々美の彼氏は。
それだけ、いい男なんだと思う。
俺はまた、マルボロに火を点けながら。
これから自分は、一体どうすべきかと考え始めていた。