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「あぁ、うん……」


俺は、奈々美のそばをすり抜けて。


のろのろと、バスルームへと向かった。



熱いシャワーと冷たいシャワーを、交互に浴びながら。


俺は、さっきまでこの場所にいた、奈々美のカラダを想う。



そのときの、俺は。


美佐と奈々美を、重ね合わせてしまっていた。


もし、奈々美が簡単に俺に抱かれるとしたら。


きっと、美佐だって同じように……。



いやいや!


何バカなことを考えているんだ、俺は!


奈々美と美佐は、関係がない。


そんなことは、良く分かっていた。


でも……。



俺は、そのとき。


今夜、奈々美を落とそうと思い直した。



もし奈々美が、俺の罠に落ちなければ。


俺は、まだ美佐を信じることが出来る。



もし、奈々美が落ちたら。


もう、美佐とはダメかもしれない……。



俺は、また。


そんな根拠のない、バカなゲームを始めようとしていた。



俺は、冷静に。


奈々美の心を誘導するのだ。


そして奈々美を、確実に落とす。


もちろん手加減は、なしだ。



俺は、今の状況が苦しかったに違いない。


美佐とのこと。


そして、恭子とのこと……。



逃げ出したくても、逃げ出せない。


そんな現実。



そして。


どうにもならない感情が、俺を苦しめる。



シャワーを止めた、そのとき。


俺の脳裏に、阿川の笑顔が一瞬浮かんで消えた。