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そのホテルは、秋葉原駅のすぐそばにあった。
いわゆる、普通のビジネスホテルだ。
シングルの部屋に、奈々美は泊まっているという。
「ありがとう、ね。送ってくれて……」
ホテルの入口で、奈々美は。
寂しそうに、笑った。
「ひろくん、大丈夫?ちゃんと独りで帰れるかな?」
奈々美は、いたずらっぽく俺に、そう言った。
「俺……帰りたくないよ、奈々美さん……」
俺は、思わずそんな言葉を口にしていた。
奈々美は。
一瞬、驚いたような顔をしたあと。
ニッコリと笑った。
奈々美の泊まっている部屋は、本当に狭かった。
シングルベッドの他には、ほとんどスペースがない。
居場所がない、俺は。
必然的に、ベッドに腰掛ける奈々美のそばに座っていた。
「……強引だよね、ひろくんって……」
そう言いながら、奈々美は楽しそうに笑う。
俺は、それには答えずに。
奈々美の瞳を、優しく見つめていた。
「……ありがと、ね。今夜ほんとは、独りだと辛かったから……」と、奈々美は言った。
しかし、本当は。
俺が、恭子のところに帰りたくなかっただけだ。
「……今夜だけでいいから。ひろに、甘えてもいいかな?」
えっ?
俺の答えを聞く前に、奈々美は。
ゆっくりと、俺を抱きしめた。