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奈々美と、俺は。


白ワインと、ジンジャーエールのグラスを重ねた。



ペペロンチーノと。


生ハムや、薄くスライスしたトマトをつまみながら。


俺たちは、楽しく話をした。



左手に巻いた、シチズンアナログクォーツの腕時計を見る。


針は、午後10時を回ろうとしていた。



今夜は、家に帰りたくないな……。


なんて。


俺は、なんとなくそんな風に思っていた。



「ねぇ、奈々美さんってさ……。どこに泊まってるんだっけ?」


俺は奈々美に、何気なくそんなことを訊いた。



「うん……秋葉原のホテル、だよ。今回の研修が終わるまでは、とりあえずそこに……」



「うん?研修が終わったら、当分東京には来ないんだよね?」



あれっ?


そのとき、俺は。


奈々美の表情が、一瞬曇るを見逃さなかった。



もしかしたら……。


「ねぇ、奈々美さんってさ。もしかしたら、東京勤務じゃないの?」


俺のそんな言葉に、奈々美はゆっくりと頷いた。



「……俺は嬉しいけど、何かありそうだね……。やっぱ、男?」



奈々美は、その質問には答えずに。


俺の目を、じっと見つめた。



俺は、奈々美の視線を正面から受け止めていた。



しばらくの沈黙のあとに。


奈々美が、ゆっくりと口を開いた。