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しかし、そんなことを気にしたって仕方がない。
それに仕事が出来る、出来ないは、学歴にまったく関係ないことなんて。
バイトをやっていたときにだって、実感していたことだ。
奈々美のことを、俺は。
大人のイイ女だ、と感じていた。
言葉の、ひとつひとつが柔らかくて。
一緒にいると、すごく居心地がいい。
でも。
そんな彼女の柔らかさの中に、感じる陰。
俺は、それに気づいてしまった。
「ねぇ、奈々美さん。今日、一緒に夜、食事しませんか?」
そんな風に、俺は。
奈々美を誘った。
俺は、奈々美とゆっくり話がしたかったのだ。
そのときの俺は。
奈々美という存在が、とても珍しかったんだと思う。
もちろん、それだけじゃなくて。
俺は奈々美に、好意と興味を持っていた。
俺は、奈々美のことをもっと知りたかった。
奈々美の、陰の原因も。
そして。
奈々美自身の、すべても。
公園通りを下って、渋谷に出た俺と奈々美は。
そんなに高そうにない、レストランバーに入る。
イタリアンをメインにした、カジュアルなメニューは。
予想以上に、バラエティーに富んでいた。
小さなテーブルを挟んで。
俺と奈々美は、初めて向かい合っていた。