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俺は、もう一度上がって行くマルボロの煙を見上げた。


そのとき。


煙の先に、俺は見てしまったのだ。


そう。


恭子の姿を。



恭子は、フラフラと。


マンションの非常階段を上がっていた。



ヤバい……!


イヤな汗が、俺の背中を流れた。



11階建ての、そのマンションの非常階段を。


俺は、へろへろになりながら。


恭子を追って、駆け上がる。



金属製の非常階段が、カンカンと鳴って。


夜の闇に吸い込まれていった。



俺は恭子に、屋上に上がる手前の踊り場で追いついた。


きっと、屋上に入るドアには鍵がかかっていたのだろう。



膝を抱えて、泣きながら座っている恭子の姿を見たとき。


俺の心は、激しく痛む。



そして。


俺は、ゆっくりと恭子を抱きしめた。



言い訳なんてしない。


その代わりに俺は、恭子の耳元でこう囁いた。


「すまない……。分かってると思うけど、今の俺には……絶対にお前が必要なんだ。どこにも行くなよ、恭子……」



俺の手を、振り解こうと暴れる恭子を。


俺は、更に強い力で抱きしめながら。


恭子の自由を奪った。



そして。


恭子の涙を、そっと唇ですくった俺は。


ゆっくりと、恭子の唇をも奪う。



恭子の力が抜けて行くのを確認しながら。


俺は、明るくなり始めた東の空を見た。


ひとつ、ため息をつきながら。