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映画の撮影には、必ずそのジェミニで出動した。
2ドアで、使い勝手は決して良くなかったが。
仲間からは、愛される車だった。
その頃、自分の車に名前を付けるのが流行っていて。
ちなみに、俺のジェミニは「ベンジャミン」という名前だった。
館山や軽井沢、静岡のロケでは、4台の車で移動していた。
もちろん、俺の「ベンちゃん」も出動した。
俺はいつも、ベンちゃんを運転して。
いろいろな場所に行ったわけだ。
スタッフや役者の総勢は、13人か14人だった。
それぞれが、4台の車を乗り換えながら。
移動中は、バカ話をしながら楽しく過ごした。
真希は、いつも。
俺とは、別の車に乗ることが多かった。
静岡のロケが終わって、都内に戻る途中で。
たまたま、俺のベンちゃんの中で。
俺と真希、ふたりきりになった。
「……やっとふたりきりになれたね……」
俺は冗談ぽく、真希にそう言った。
「……そうね、ひろ。あたしも、こうしたかった……」
真希は、いたずらっぽく笑いながら。
シフトレバーに置いた俺の左手の上に。
そっと、自分の右手を重ねた。
「嬉しいよ、真希……」
俺は、そんな風におどけながら。
真希の顔を見た。
あれっ?