27


1986年の、秋のことだ。


突然、友達の阿川が失踪した。



阿川は、監督コースのやつで。


俺とは、一年生の頃から仲が良かった。



その頃、確かに阿川は元気が無かった。


言葉を掛けても、阿川の反応は薄い。



それは。


阿川が撮っていた映画に、原因があったのかもしれない。



阿川が撮っていた映画は。



もうひとりの自分から。


自分宛てに手紙が届く、という話だった。



生まれ故郷の九州から、自分に会うために。


どんどん東京に、もうひとりの自分は近づいて来る。



もちろん主人公は、その事実に狼狽して。


原因を、探ろうとする。



そんな、不思議な話を阿川は作っていた。



俺は、阿川に尋ねたことがある。


「阿川さぁ……。なんで、こんな話をやろうと思ったの?」と。



そのとき阿川は、ニヤリと笑って。


「内緒」とだけ答えた。



映画のことで阿川が悩んでいる、という話は聞いていた。


でも、そのときの俺は。


そんなに深刻には、考えていなかったのだ。



阿川は、何日も姿を現さなかった。


おかしい……。


みんなが、そんな風に思い始めたころのことだった。



俺は、その夜。


こんな夢を見た。



恭子の部屋に、突然阿川が訪ねて来た。


俺は、ドアを開ける。



玄関先に立つ阿川は。


なぜか、フルフェイスのヘルメットをかぶっていた。



顔は、全く見えないのだが。


俺にはそれが、阿川だと分かっていた。