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1986年の、秋のことだ。
突然、友達の阿川が失踪した。
阿川は、監督コースのやつで。
俺とは、一年生の頃から仲が良かった。
その頃、確かに阿川は元気が無かった。
言葉を掛けても、阿川の反応は薄い。
それは。
阿川が撮っていた映画に、原因があったのかもしれない。
阿川が撮っていた映画は。
もうひとりの自分から。
自分宛てに手紙が届く、という話だった。
生まれ故郷の九州から、自分に会うために。
どんどん東京に、もうひとりの自分は近づいて来る。
もちろん主人公は、その事実に狼狽して。
原因を、探ろうとする。
そんな、不思議な話を阿川は作っていた。
俺は、阿川に尋ねたことがある。
「阿川さぁ……。なんで、こんな話をやろうと思ったの?」と。
そのとき阿川は、ニヤリと笑って。
「内緒」とだけ答えた。
映画のことで阿川が悩んでいる、という話は聞いていた。
でも、そのときの俺は。
そんなに深刻には、考えていなかったのだ。
阿川は、何日も姿を現さなかった。
おかしい……。
みんなが、そんな風に思い始めたころのことだった。
俺は、その夜。
こんな夢を見た。
恭子の部屋に、突然阿川が訪ねて来た。
俺は、ドアを開ける。
玄関先に立つ阿川は。
なぜか、フルフェイスのヘルメットをかぶっていた。
顔は、全く見えないのだが。
俺にはそれが、阿川だと分かっていた。