45 『君の着物姿を』



俺は、渋谷の街を。


独り、当てもなく歩いていた。



ここ数日で、すっかり涼しくなったな……。



爽やかな秋風を感じながら。


でも。


俺の心は、やはり晴れなかった。



カラダの異常は、気のせいかもしれない。


そう信じては、いたが。


やはり、ちゃんとした結果が分かるまでは不安だった。



別に夜は、グッスリと眠れるし。


自分としては、全く堪えていないと思っていた。



でも。


やはり、いつもとは違う。



やはり。


元気がないと、ひとには言われるし……。



そんなことを考えながら。


宮益坂を下って、交差点を駅の方に渡るとき。


俺は、着物を着た女性とすれ違った。



その女性は。


とても、綺麗に歩いていた。



そして。


俺は、その美しさに感心した。



きっと、着物を着なれているに違いない。


それは。


歩き方を見れば、すぐに分かることだ。


そして。


その時、俺は。


その女性に、彼女の姿を重ねていた。



彼女は、着物が好きだった。


でも、俺は。


ただの一度も、彼女の着物姿を見たことがない。



彼女に、久しぶりに電話をしてみようかな……。


俺は、いつの間にか。


逢わなくなって、ずいぶん時間が経ってしまった彼女に。


また逢いたくなってしまったのだ。



こんな時だから。


本当に逢いたいって思う相手のことを。


俺は、思ってしまうのかな?



俺は独り、渋谷の街なかで苦笑いしていた。




『君の着物姿を』