24 『あの頃も、幸せだった』


「えーっと、さ。あれあれ。あれが欲しいんだけど……」


ぼくが、そう言うと。


「はいはい、あれね!」


君が、そう応える。


いつの間にか、ぼくたちは。


そんな風に、考えることがお互いに分かるようになっていた。



「なんだか、イヤだなぁ」と、言うぼくに。


何も言わずに、君は微笑みながら、そっとぼくの手を握った。



ずっと、こんな時間が過ごせればいいのに。


ぼくはあの頃、そんなことを思っていたっけ。



でも。


終わりなんて、あっという間にやって来た。


そんな楽しかった時間が、まるで夢のように思えるほどの早さで。



ぼくは、あの頃の幻を追う。


誰もいない、この部屋で。


いや、違う。


君の残した犬が、クゥーンと鳴いてぼくを慰める。


だから、ぼくは少しだけ救われる。



こんな時間を、過ごしながら。


でも、ぼくは幸せなんだと思う。


だって。


もう嫌な思いは、しなくてもいいんだから。



ふたりの生活は、良いことばかりじゃなかった。


でも。


今は、幸せだったことしか思い出せないよ。



だから、今。


きっとぼくは、とても幸せなんだと思う。


「なぁ、パール。お前も、そう思うだろ……?」


傍らにいる、ミニチュアダックスフントのパールを撫でながら。


ぼくは、そんな風に呟いた。



そのとき。


パールが小さく、ワンっと応えた。




『あの頃も、幸せだった』