20 『タイムスリップ』
その夜。
俺は、その店にライブを聴きに行った。
ふらっと、独りで。
俺は、店のドアを開ける。
すると、そこに。
君が立っていた。
えっ?
俺の顔を、驚いたように見つめる君。
えっと、……誰だっけ?
俺は最初、本当に君が誰だか分からなかったんだ。
こんな美人を、忘れるはずがない。
君はきっと、ひと違いをしてるに違いない、と思った。
でも……。
そのとき。
俺のほうに近づいて来ながら、君は言った。
「……久しぶり、ひろさん。わたし、だよ。覚えてる?」
君の声を聴いた、その瞬間。
俺の頭の中に、10年以上前の記憶が一気に吹き出した。
君、だったのか……。
君のことを、俺が忘れるワケがない。
いや。
本当は、忘れようとしていたのかもしれないけれど……。
「……本当に久しぶりだな。10年ぶり、かな?」
俺は、少し動揺しながら君の顔をじっと見る。
それなりに歳を重ねた君だけど。
やはり君は、相変わらず、すごく美しい。
「相変わらずキレイだね」と、からかう俺に、君はこう応える。
「……もう。冗談ばっかり……」
君と初めて逢ったのは、もう15年も前のことだ。
ある番組の新人リポーターとして、君は突然現れた。
同い年ということもあって、俺たちはすぐに仲良くなった。
それから。
俺たちは、数々の事件や事故の現場を一緒に踏んだ。
「俺たちって、腐れ縁だよな!」
そう言いながら、俺たちは笑い合う。
「同志っていうか、戦友だよね」と、君はポツリと言った。
昔を懐かしむように。
確かに、そうだったよな。
確かにあの頃は、本当に大変な毎日だったけど。
毎日が、とても楽しかった。
俺は、あの頃。
君のことが、本当に大好きだったんだ。
タレントやアナウンサー、レポーターにスタッフ。
俺はその頃、仲間を好きになるのはやめようと決めていた。
結果的には、その禁を破ってしまった俺だけど、長い間俺はそうしていたんだ。
だから、俺は。
いま目の前に居る君に、自分の気持ちを伝えなかった。
でも……。
きっとそれで、良かったのかもしれない。
だからこそ。
お互いに、ずいぶん大人になった俺たちは。
これから先、それでもまだまだ長い時間を。
きっと、良い関係で過ごせるはずだから。
「時間が出来たら、ゆっくり逢ってよ。連絡するね!」と、君は笑った。
喜んで。
ぼくは、そう言う代わりに、ニッコリと笑う。
再び出逢えた奇跡に、感謝しながら。
そのとき。
嬉しそうに微笑んだ君の姿が、一瞬あの頃の君に見えた。
『タイムスリップ』
了