10 『さよなら、笑顔』
7月も、もうすぐ終わる。
梅雨空の合間に、丸1日晴れたその日。
ぼくは、午後7時に。
君と渋谷で待ち合わせた。
ぼくは、モヤイ像の前に立ち、君の姿を捜す。
久しぶりだよな、君に逢うのも……。
ぼくは、君と初めて出逢った夜のことを思い出していた。
それは、あるパーティーで。
どちらともなく、意識して。
どちらともなく、声を掛けた。
思いもよらず。
いつの間にか、こんなにも歳を重ねてしまったぼくは、孤独だった。
そんなぼくに希望を与えてくれたのは、間違いなく君だ。
左手に巻いた、古いオメガを見る。
針は、7時4分を指していた。
きっと君は、いつものように少し遅れて来るのだろう。
ぼくは。
行き交う人々を見ながら、ひとつため息をつく。
君と過ごした日々を、ゆっくりと思い返しながら。
あの、麻布の店で。
お互いの気持ちを、しっかりと確かめ合った夜。
あの夜から。
もう、2年という時間が過ぎようとしていた。
ぼくたちは数ヶ月に一度のペースで、こんな風に待ち合わせる。
その間に、君はいろんな男に逢って。
ぼくも、いろんな女に逢う。
そんな関係でも、ぼくの心の真ん中には、ずっと君がいた。
でも。
最近、ぼくは苦しくてたまらなくなってしまったんだ。
君に対して嫉妬だってするし、本当は独占だってしたい。
でも……。
それよりも、何よりも。
ぼくは、気づいてしまったんだ。
君は最近、ぼくへの興味がきっと薄れてしまったんだ、って。
ぼくは、思う。
きっと、もう君には逢わないほうが良いに違いないんだ。
ぼくは。
そんな苦しさから、ただ逃げ出したいわけじゃない。
いや、ホントは、そうなのかもしれないけれど……。
ぼくは、ひとつため息をつく。
なかなか現れない君を待ちながら、ぼくは決心していた。
もし。
君が、笑顔で現れたら。
もう少し、この関係を続けてみよう。
もし、そうじゃなかったら。
ぼくはもう、二度と君に逢わない。
そう決めた。
現れたときの最初の表情で、相手への気持ちが分かる。
もし君がまだ、ぼくのことが必要ならば、君は笑顔を見せてくれるに違いない。
そのとき。
ぼくのケータイが、鳴った。
君からだ。
「ごめんなさい、遅れて。あと30秒で着くから!」
ぼくは、ドキドキしながら君を待つ。
果たして、君は?
君は、無表情で現れた。
そして。
ぼくを見つけると、ニッコリと笑った。
ぼくは。
そのとき、気づいてしまったんだ。
笑えないのは、本当は自分だってことに。
『さよなら、笑顔』
了