8 『思い出し笑い』
「あれが思い出せないんだよ。え~と、あれ!」
あなたは、いつものようにそう言いながら、ポリポリと頭を掻いた。
わたしは、そんなアナタを見ながら微笑む。
わたしは、ずっとそんな幸せな生活を送って来たんだと、最近よく思うようになっていた。
何気なく過ぎていく時間。
それって、本当は。
本当に、かけがえのない大切なものなんだっていまさら気づいた。
わたしは、あなたの姿を見ながら、もう一度微笑む。
「あれが思い出せないんだよ。え~と、あれ!」
あなたは、いつものようにそう言いながら、ポリポリと頭を掻く。
「……ズルいな、あなただけ……」
わたしは、そんなあなたにちょっとだけ嫉妬した。
モニターの中のあなたは、いつまで経っても、ずっと若いままなのだから。
あなたが逝ってから、わたしはずっとこんな調子で毎日を過ごしていた。
でも。
わたしもそろそろ、一歩踏み出さないとダメだよ、ね。
わたしは、もう一度DVDプレイヤーを再生する。
わたしは、モニターの中のあなたの姿を見ながら、もう一度微笑んでいた。
『思い出し笑い』
了