3 『彼女のお守り』
恵比寿のその店は、部分部分で違った雰囲気を持っていた。
その夜ぼくたちは、店の一番奥にあるカップルシートに案内された。
というか、実は予約を入れてその席をキープしていたのだが。
彼女とぼくとの関係は、微妙だった。
なにしろ、妻帯者であるぼくには、制約が多すぎる。
たとえ。
ぼくが彼女に好意を持ったとしても。
逆に。
彼女がぼくに好意を持ったとしても。
表面上は、それ以上の関係には進めないのだ。
とにかく。
ぼくにとっては、実は誰が相手でも同じことなのだけれど。
そんなことを考えていたぼくに、彼女はこう言った。
「私には、ね。いて欲しいときに偶然、そばにいてくれる男の人がいるの……」と。
なるほど。
確かに彼女にとっては、彼は運命的な存在なのだろう。
ぼくは会ったこともないその男に嫉妬しながらも、平静を装った。
ナチュラルチーズをジンジャーエールで流し込みながら、ぼくは考えていた。
少しでも。
ぼくは彼女にとって、彼のようなそんな存在にはなれないだろうか、と。
ぼくは、彼女の「お守り」になりたかった。
いつもは気に留めていなくても、いざというときには心の支えになれるような。
ぼくは、彼女にとってそんな存在になれるだろうか?
きっと。
ぼくはそんな存在には、なれないのかも知れない。
でも。
ぼくは、やはり彼女の「お守り」になりたいと思った。
グラスに注がれた赤ワインを飲む彼女を見つめながら、ぼくはそのときそう決心していた。
ぼくは心の中味を悟られないように、穏やかに世間話を続けながら、もう一度彼女をじっと見つめていた。
『彼女のお守り』
了