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俺とくみちゃんは、池袋東口から4~5分歩いて、ある店に入った。
その店は地下にあって、狭い木造りの階段を下りると目の前には思いのほか広い空間が広がった。
そこは。
旨い和食を食わせる、と評判の店だ。
「へぇ、いい店知ってますね。お酒飲まないくせに」と、くみちゃんは笑った。
ちょっと毒を吐くが、イヤミがないのがくみちゃんの魅力だ。
俺とくみちゃんは、店の奥の低いテーブルに向かい合って座った。
くみちゃんと、こうやってふたりで逢うのは、もちろん初めてのことだった。
「ごめんね、急に呼び出して……」
そう言った俺に、くみちゃんはニッコリと笑って、こう言う。
「ううん。ひろさんとふたりで食事できるなんて、ホント光栄です!」
くみちゃんは両手を顔の前で組みながら、いたずらっぽく言う。
「でさ、くみちゃんさぁ…。今日誘ったのは、ちょっと聞きたいことがあって、さ……」
「……くみでいいです。くすぐったいから、くみちゃんだと……」
「……じゃあ、くみ……。あのさ、えーと……」
俺は思いのほか真顔で受け答えるくみに、少しだけ混乱していた。
「……麻里恵さん、のことですよね。聞きたいことって……」
くみは、そう言って梅酒の水割りを一気に飲み干した。
えっ?
くみは俺の心を探るように、じっと俺の目を見ていた。