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麻里恵の手は、温かかった。


俺は、もう一度麻里恵の方に向いて、こう言った。


「おやすみ、麻里恵……」


そのとき。


麻里恵は少しだけ寂しそうに、笑った。



俺と麻里恵は、朝まで手をつないだまま眠った。


俺は、不思議だった。


ただ、それだけで。


とても落ち着いた、幸せな気持ちで眠れたからだ。


もしかしたら。


もう長い時間、こんなことはなかったのかもしれない。


俺は、そんなことを感じていた。



そして。


コーヒーの良い香りで、俺は目を覚ました。


「あっ、おはよう!朝ご飯作ったよ。もうお昼過ぎてるけど」


そう言って、麻里恵は笑った。


俺は、麻里恵のそんな笑顔に見とれてしまっていた。



そのとき。


心が、熱くなるような。


胸が、痛くなるような。


穏やかだけど熱い想いが湧き上がって来るのを、俺は感じていた。



俺は、そのとき気づいたのだ。


俺は。


確実に、麻里恵のことを愛してしまったと。



それでも。


俺は、冷静だった。


麻里恵の気持ちだって、まだはっきりと分からないではないか。



俺は。


そのとき麻里恵を愛するが故に、ひどく臆病になっていたのかもしれない。