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「……あぁ、うん」と、俺は答えた。


セミダブルのベッドに、俺と麻里恵は並んで横になった。


俺のすぐそばに、麻里恵がいる。


そのことだけで。


俺は、なんとなく心が落ち着かなかった。



「ねぇ……ありがとね。今日来てくれて……」


麻里恵が、そうささやいた。


「ううん。こちらこそ。楽しかったよ……」


俺は、そう言いながら、寝返りをうって左にいる麻里恵のほうに向く。



俺の目の前20cmのところに、麻里恵の顔があった。


麻里恵は、真っ直ぐに俺の目を見つめていた。


視線が、熱い。


俺は、ドキドキしながらも、冷静を装う。


俺は、麻里恵から視線を外さずに、優しく微笑む。


そのとき。


麻里恵は、間違いなく待っていた。


そう。


俺のキスを。


しかし……。


俺は、そのとき激しく葛藤していたのだ。


いま安易に、麻里恵にキスしてしまったら。


間違いなく、俺は麻里恵を抱くことになってしまうだろう。



俺はいま、女を幸せにする自信がなかった。


それならば。


いま麻里恵に、キスすることが正しいとは思えなかったのだ。



俺は、麻里恵の髪を優しくなでる。


そして。


俺は天井を向きながら、そっと麻里恵の手を握った。