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メークとカメラマンは、けっこう近い立場で仕事をする。
撮影中、タレントの顔のテカリを抑えるのもメークの大事な仕事だ。
俺がそろそろ抑えて欲しいな、と思う直前の絶妙なタイミングで、麻里恵は動く。
基本中の基本だが、なかなかちゃんと出来るメークは少ない。
麻里恵は、タレントともスタッフともすぐに仲良くなっていた。
場を和ませながら、それでいて、しっかりと良い仕事をしていた。
なかなか、いいじゃん……。
俺は、珍しくそう感じていた。
撮影の合間に、俺は麻里恵といろいろ話をした。
「……で、麻里恵ちゃんってどこに住んでるの?」と、俺は聞く。
「あっ、CXのそばですよ。ハナコさん、いやひろさん会社近いでしょ?遊びに来ます?」と、麻里恵はいたずらっぽく言った。
俺は、麻里恵のそんな言葉にドキッとしていた。
「そんなこと言うと、本気にしちゃうよ」と、俺は返す。
「いいですよ、本気にしても……」と、麻里恵は笑った。
あれっ?
俺は、そのとき不思議な感覚を感じていた。
そんな、きわどい会話をしているのに。
俺の心は、なぜか穏やかだった。
俺はその日、ちょこまかと動く麻里恵を楽しく見ていた。
そして。
俺はその日、麻里恵と連絡先を交換して別れた。