80


部屋に入った俺は、いつものように冬子を抱きしめて、ゆっくりとキスをする。


ん?


冬子の様子が、いつもとは違う?



確かに今夜の冬子は、いつもとは違っていた。


店でも冬子は、いつもよりかなり大人しかったし。


俺は、実は少し気になっていたのだ。


だから。


今夜は、冬子の部屋に行くのを避けたのだ。


こんなときは、環境を変えたほうが良い。


そんなもんだ。



さすがに、冬子に酒をあまり飲むな、と言ったせいだけではないだろう。


俺は、じっと冬子の目を見つめる。


「……どうした?冬子……」


俺は、冬子の髪を優しくなでながらそう言った。



「ひろさん、あたし……本気で、本気で好きになった男ができた……」と、冬子は真剣な眼差しで俺に言った。


そっか……。


俺はそのとき、ホッとしたような気持ちと、惜しいような気持ちと、ふたつの気持ちを同時に感じていた。



「……そうなんだ。いいヤツかい?そいつは?」



何言ってんだ、俺!


俺はそのとき、やはり動揺していた。


冬子を失うことは、俺にとってどうでも良いことではないのだ。



そして。


冬子は、ニッコリと笑いながら俺に抱きついて来た。



「うんっ!……ひろさん、あなたのことだから!」


へっ?


「あたし、あなたこと本気になっちゃったの!」



マジかよ!


俺は、さっきまでの感情が急激に醒めていくのを感じていた。