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その夜。
俺は、栞を抱きしめながら眠った。
裸同然の栞を、抱きしめながら。
だから。
俺は、ほとんど眠ることは出来なかった。
結局、俺は栞を抱かなかった。
いや。
抱けなかったと言ったほうが、良いかもしれない。
男としては、本能的にかなり辛かった。
でも。
俺は、理性が勝ったというか、とにかく栞を抱かずに済んだのだ。
スースーと寝息をたてる、栞の寝顔を見ながら。
俺は、長い時間いろいろなことを考えた。
たぶん俺は、一生この子のことを忘れられないのだろう。
それは。
抱いたとしても、抱かなかったとしてもきっと同じなのだ。
栞は、やはり俺にとって特別なのだ。
もし、俺が栞を抱いてしまったら。
栞はきっと、そんな特別な存在ではなくなってしまうような気がした。
俺は、それが怖かったのだ。
俺には。
栞との未来は、もう考えられなかった。
俺は、あの頃のように栞を愛せないことに気づいていた。
そして。
正直に、白状すれば。
本当に俺は、勇気がなかったのだ。
そう。
今の俺には。
誰かを幸せにするなんて、まったく自信が持てなかった。
陽子を幸せに出来なかった俺は今、完全に自信を失っていたのだ。