73
シャワーを終えた俺は、ひとつ大きく息を吐いて、シャワールームを出た。
「……栞?」
栞が、いない!
部屋に入った俺は、栞の姿が見当たらないことに動揺していた。
ん?
でも、栞が脱いだ服は、キレイに畳んでソファーの上に置いてある。
ということは、上か……。
俺は、苦笑いしながらゆっくりとハシゴを上った。
いまさら、栞が逃げるはずがない。
俺は、やはり不安だったのだ。
それは。
やはり栞に、逃げられた過去があるからだろう。
2畳ほどの狭いロフトに、栞はいた。
俺は、布団の上に横たわる栞に声をかける。
「……栞?」
栞は眠っていた。
えっ?
涙?
栞は、涙を流しながら眠っていた。
俺は、栞の涙を見た瞬間に。
自分の心に、小さなクラック(ヒビ)が入ったような気がした。
そして、そのクラックが少しずつ広がっていく。
気がつくと、俺は。
栞と同じように、涙を流していた。
俺の、栞への愛。
今の栞の環境と、気持ちを想う。
そんな複雑な気持ちが絡み合って、俺は混乱していたのだ。
いまさら栞を抱いたとしても、何も良いことはない。
そして。
抱いた後のことを考えると、確かに気が重い。
「俺も歳をとったよな、栞……」
俺は、そうつぶやきながら、栞の唇に優しくキスをした。