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栞の浴びるシャワーの音を聞きながら、俺は考えていた。
沙樹を抱いた俺は、そのあと激しく後悔した。
叶わないほうが良い夢もあるのだ。
そして。
それは、栞とだって同じなのだ、きっと。
シャワーの音が、止まる。
しばらくして現れた栞は、バスタオル一枚の姿だった。
俺の脳裏に、あの時の沙樹の姿が重なった。
そして。
栞が、恥ずかしそうに俺に近づいて来た。
キレイだ、栞……。
俺は、栞の姿に震えた。
呆然と栞を見つめる俺の手から、エヴィアンのボトルを奪った栞は、艶やかに微笑む。
そして、わずかに残ったミネラルウォーターを、栞は飲み干した。
そこには。
俺が知らない、栞がいた。
俺は、そのとき本当は、違和感を感じていたのだ。
俺の目の前には、俺が愛した栞ではない栞がいる。
そうだとしたら。
俺が栞を抱かない理由は、なくなる。
俺は、栞をゆっくりと抱きしめながら、耳元でこうささやいた。
「……シャワーしてくるね。待ってて」
小首を傾げたあと、栞はゆっくりとうなずいた。
俺は、ぬるめのシャワーを浴びる。
さっきまで触れていた栞の肌のなめらかさと、ぬくもりを思った。
俺は。
栞を抱く。
そのとき俺は、そう決めていた。