70


俺は栞に背中を向けたまま、少しの時間考えていた。


もし。


栞が本当に、俺のものになったとしても。


それが、俺にとっても。


そして、栞にとっても。


幸せなことだとは、俺にはどうしても思えなかった。



俺は、ゆっくりと栞のほうに振り向く。


栞は涙を溜めた大きな瞳で、俺を見上げていた。



「……栞。本当に、すまな……」



そう言う俺の唇を、突然栞が塞ぐ。


そして。


栞の柔らかい舌が、俺の中にゆっくりと入って来た。



俺は、目を閉じる。


そして。


栞の体を、強く引き寄せる。


俺は、栞の髪を優しくなでる。



俺は、もう一度栞の顔を見た。


栞は、やはりとても美しい。


「……お兄ちゃん。あたし、自分の気持ちに決着を着けたい……」


真っすぐに俺を見つめる栞の視線が、俺には痛かった。


「……俺もだ、栞。俺は、ずっとお前のことが忘れられない。このままだと、この先もずっと……」


俺は、もう一度、さらに強く栞を抱きしめながら思った。


今夜こそ、俺は栞への気持ちに決着を着けるのだ。



俺は、栞の柔らかい耳たぶを優しく咬む。


そのとき。


俺は、あの頃とは違う栞の匂いにとまどいを感じていた。