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「ねぇ、お兄ちゃん。どこへ行くの?」


栞は、小さな声でそう聞いた。


「うん……練馬から関越に乗ろうかと思ってる」と、俺は答えた。



四年前の、あの日。


俺は、栞を伊豆へ連れて行くつもりだった。


そして、栞の気持ちを受け入れて。


ふたりっきりで、もう一度夜を過ごすつもりだった。


しかし……。



俺は今、新潟方面に向けて車を走らせていた。


やはり、あの頃とは気持ちが違っているのだ……。



そのとき、栞がゆっくりと口を開いた。


「お兄ちゃん。あたし、お兄ちゃんの部屋に行きたい……」


栞は、今度はハッキリとそう言った。



「……遠くないよ、俺の部屋。それでもいいの?」


そう訊いた俺に栞は、ささやくようにこう言った。


「だって、そこが……あたしにとっての、一番遠い場所だったから……」



栞のその言葉に、俺の胸は激しく痛んだ。



俺は……。


栞に、どれほどの悲しみと絶望を与えてしまったのだろう。


そして、俺がそんな思いをさせた女は数多い。


俺は、いまさらそんなことに気づいていた。



「お兄ちゃんの部屋に連れて行って。お願い、お兄ちゃん……」


栞がもう一度、そう言った。



「あぁ、わかった」


俺は、ポルシェを江古田へと向けた。