68
「ねぇ、お兄ちゃん。どこへ行くの?」
栞は、小さな声でそう聞いた。
「うん……練馬から関越に乗ろうかと思ってる」と、俺は答えた。
四年前の、あの日。
俺は、栞を伊豆へ連れて行くつもりだった。
そして、栞の気持ちを受け入れて。
ふたりっきりで、もう一度夜を過ごすつもりだった。
しかし……。
俺は今、新潟方面に向けて車を走らせていた。
やはり、あの頃とは気持ちが違っているのだ……。
そのとき、栞がゆっくりと口を開いた。
「お兄ちゃん。あたし、お兄ちゃんの部屋に行きたい……」
栞は、今度はハッキリとそう言った。
「……遠くないよ、俺の部屋。それでもいいの?」
そう訊いた俺に栞は、ささやくようにこう言った。
「だって、そこが……あたしにとっての、一番遠い場所だったから……」
栞のその言葉に、俺の胸は激しく痛んだ。
俺は……。
栞に、どれほどの悲しみと絶望を与えてしまったのだろう。
そして、俺がそんな思いをさせた女は数多い。
俺は、いまさらそんなことに気づいていた。
「お兄ちゃんの部屋に連れて行って。お願い、お兄ちゃん……」
栞がもう一度、そう言った。
「あぁ、わかった」
俺は、ポルシェを江古田へと向けた。