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俺は、心の中にいくつもの墓を建ててきた。
例えれば、そういうことなのかもしれない。
自分の気持ちの整理を着けるために。
俺は、何人もの女との想い出を、心のなかに埋めてきたのだ。
しかし。
栞の名前は、まだ墓碑に刻むことが出来ないでいた。
俺は右手を延ばして、栞の左手に触れる。
「栞……俺はあの頃、本気でお前を愛していたんだ……」
栞が、驚いたように俺の方を向く。
俺は、横目に栞の熱い視線を感じながら、正面を向いたまま話を続ける。
「俺は、あの日……お前のすべてを受け止めようと思っていた。彼女とは別れるつもりだった……」
栞は、何も言わずに俺の横顔を見つめていた。
栞の視線が、痛い。
長い沈黙の後、栞が口を開く。
「もっと早く!もっと早く言ってくれたら、あたしは……」
栞は振り絞るようにそう言って、涙を流し始めた。
「ゴメン、栞……」
今の俺には、ただそれだけしか言えなかった。
俺は今夜、栞と決着を着けるつもりだ。
今夜、幸せそうに見える栞に偶然に出逢えた。
俺は、そのまま消えるつもりだった。
それで、決着が着けられるはずだったのに……。
俺は今、栞とまた新しい想い出を作ろうとしているのではないのか?
自問自答しながら、俺はポルシェを練馬へ向けた。