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10分後。
俺と栞を乗せたポルシェは、首都高を東京に向けて走っていた。
「……こんな車だったんだ……」
栞は、そうつぶやきながら革張りのシートを撫でた。
あの日。
栞は、初めてこの車に乗るはずだった。
「……お父さんもお母さんも旅行でいないから……お兄ちゃん、どこか遠くへ連れて行って……」
栞は、最後の電話で俺にそう告げた。
しかし。
結局、栞は待ち合わせ場所に現れなかった。
栞は、俺の本当の気持ちを知らなかった。
いや。
俺が、その気持ちをちゃんと栞に伝えることが出来なかったのだ。
だから。
俺は、栞を責めることも出来ないし、逆にずっと申し訳なく思っていた。
あれから、四年の月日が流れたのだ。
カーコンポからは、King Crimzonのファーストが流れていた。
Epitaph(エピタフ)、か……。
墓碑名という名のその曲は、カップルで聞くにはまったくふさわしくない。
しかし。
その悲しげなギターのアルペジオが、今の俺には心地良かった。
「……悲しい曲だね、お兄ちゃん……」
栞のその言葉が、俺の心に響く。
誰かから無理やり奪ってでも、もう一度栞を手に入れたい。
そんな風には、もう思えない俺がいた。