63


俺と栞は、あまり言葉も交わさずにただ一緒に時を過ごしていた。


ただ、それだけで。


俺が栞に対してずっと持っていた、気持ちのしこりのようなもの。


それが、少しずつほぐれていくのを感じていた。



「ねぇ、お兄ちゃん。手を見せて」と、栞が言った。



うん?


俺は、栞に両手を差し出す。


「ふーん」と栞は、意味深に笑った。



「お兄ちゃん、いま彼女いないんだ」と、栞は微笑む。


「そうだよ……指輪か?栞……」


「そう。彼女がいるなら絶対に指輪してるでしょ、お兄ちゃんは」


「……そっか。そうだよな……」


俺は昔、栞に逢うときに指輪をしていたっけ。


でも。


それは、沙樹子のための指輪ではなかった。



栞は、そう思っていたのか……。


俺は、栞が勘違いしていたという事実を告げようと口を開こうとした。



しかし……。


俺は、それを思い留まった。


告げたいという気持ちは、強くあった。


しかし。


いまさらそれを栞に告げて、何の意味があるというのだろう?



俺は、甘そうなカクテルを飲む栞の横顔じっとを見る。



俺は。


ずっとこの女のことを、忘れられないでいた。


だから。


今夜、それに決着をつける。


俺は、そう決めていた。