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俺と栞は、あまり言葉も交わさずにただ一緒に時を過ごしていた。
ただ、それだけで。
俺が栞に対してずっと持っていた、気持ちのしこりのようなもの。
それが、少しずつほぐれていくのを感じていた。
「ねぇ、お兄ちゃん。手を見せて」と、栞が言った。
うん?
俺は、栞に両手を差し出す。
「ふーん」と栞は、意味深に笑った。
「お兄ちゃん、いま彼女いないんだ」と、栞は微笑む。
「そうだよ……指輪か?栞……」
「そう。彼女がいるなら絶対に指輪してるでしょ、お兄ちゃんは」
「……そっか。そうだよな……」
俺は昔、栞に逢うときに指輪をしていたっけ。
でも。
それは、沙樹子のための指輪ではなかった。
栞は、そう思っていたのか……。
俺は、栞が勘違いしていたという事実を告げようと口を開こうとした。
しかし……。
俺は、それを思い留まった。
告げたいという気持ちは、強くあった。
しかし。
いまさらそれを栞に告げて、何の意味があるというのだろう?
俺は、甘そうなカクテルを飲む栞の横顔じっとを見る。
俺は。
ずっとこの女のことを、忘れられないでいた。
だから。
今夜、それに決着をつける。
俺は、そう決めていた。