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「どうして……こんな場所に?」


俺は、思わず栞にそう声をかけていた。



「マスターが彼氏の知り合いなの。だから、たまに来るの」と、栞はささやくように言った。


「……そっか」



俺は、店の中を見まわす。


「お兄ちゃん。あたし今日は、ひとりだよ」と、栞は微笑む。



彼氏、か……。


俺は、そのとき栞の彼氏に嫉妬していた。


何をいまさら。


栞に、彼氏がいないほうがおかしいではないか。


俺は、苦笑いする。


それに。


もし逆に、彼氏がいないとしたら。


俺は、また栞のことが心配でたまらなくなるだろう。



あの頃の栞は、大好きだった先輩が親友の子と付き合い始めて悩んでいた。


そんなとき。


大阪のロケで偶然知り合った俺と栞は、不幸なまま終わった。



俺は、栞を愛していた。


しかし。


その気持ちを、素直に伝えることが出来なかった。


そして。


俺は、栞を激しく傷つけたのだ。



栞は、体を壊すほど悩んだ。


そして。


結果として、拒食症になってしまったのだ。


まったく太っていないのに、栞はいつももう少しやせたいとこぼしていた。


それが、そんな結果になってしまったとは……。


俺は、栞の気持ちを受け入れて、栞を救おうとした。


しかし。


すでに、遅すぎたのだ。