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首都高池袋線に入る。


飯田橋を過ぎると、Rの小さいカーブが連続し始めた。


俺は、平均60マイル(約100km/h)のペースを落とさず、次々にコーナーをクリアしていく。


ZFのマニュアルシフトは、カチッカチッと正確に決まる。


俺は、セナのようにアクセルを細かくふかしてエンジンの回転数を合わせながら、4速と3速にギアを行き来させる。


今日は、道が空いていて助かった。



レザーレカロのシートは、思ったよりもホールディングが悪い。


その理由は、表面の革が滑るためだ。



真由子は、楽しそうに声を上げながら、シートの中を左右に飛び回っていた。



「楽しい!ジェットコースターみたい!」と、真由子ははしゃいだ。



やれやれ。


俺は、そのとき真由子のことを愛していないことに気付いた。


いや。


そもそも、愛そうという気がないのだ。


俺は、独り苦笑いする。



真由子に、確かに好意は持っている。


そうでなければ、いま一緒になどいないのだ。


しかし……。



戸田を過ぎて、俺はポルシェを一般道に下ろした。


「ねぇ、あたしどこに連れて行かれちゃうの?」


真由子は不安を装いながら、期待を込めて甘い声でそんなことを言う。



俺は少しイラつきながらも、優しい声でこう言った。


「たぶん、真由子が行ったことないところだよ」



コンソールに、緑に輝くデジタル時計は23:26を表示していた。