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俺は、わがままに過ごしたかった。


誰かに縛られることなく、好きなときに好きな女と遊ぶ。



俺は、陽子に裏切られてから、そんな風にしていた。



いつ終わるかも知れない命。


そして、愛なんてもっと儚(はかな)いものだ。



だから。


俺は今、誰も愛したくなかったのだ。



弥生を腕のなかに抱きながら、俺はそんなことを考えていた。


弥生にとって、こんな俺はきっと、必要のない存在になるだろう。


それならば、それでも仕方ない。



俺は、弥生を抱きしめる。


俺は、本当は弥生とこうしているだけで心が安らいでいた。


本当は、俺のほうが弥生を必要としているのだ。


俺は、そんな気持ちを否定しながら目を閉じた。



次の朝、弥生は帰って行った。


「ありがとう、お兄ちゃん。バイバイ!また、ね……」


弥生の笑顔は、寂しそうに見えた。


俺は結局、弥生を救ってなどいないのだ。


心に残る苦い気持ちを、俺は無理やり封じ込めた。



それから、数日後。


俺は、真由子と代官山のカフェバーにいた。


弥生とのことは、俺の心をかき乱していた。


その、乱れた心を。


俺は、真由子にぶつけるつもりだった。


俺は今夜、真由子を落とす。


そう決めていた。