50
俺は、わがままに過ごしたかった。
誰かに縛られることなく、好きなときに好きな女と遊ぶ。
俺は、陽子に裏切られてから、そんな風にしていた。
いつ終わるかも知れない命。
そして、愛なんてもっと儚(はかな)いものだ。
だから。
俺は今、誰も愛したくなかったのだ。
弥生を腕のなかに抱きながら、俺はそんなことを考えていた。
弥生にとって、こんな俺はきっと、必要のない存在になるだろう。
それならば、それでも仕方ない。
俺は、弥生を抱きしめる。
俺は、本当は弥生とこうしているだけで心が安らいでいた。
本当は、俺のほうが弥生を必要としているのだ。
俺は、そんな気持ちを否定しながら目を閉じた。
次の朝、弥生は帰って行った。
「ありがとう、お兄ちゃん。バイバイ!また、ね……」
弥生の笑顔は、寂しそうに見えた。
俺は結局、弥生を救ってなどいないのだ。
心に残る苦い気持ちを、俺は無理やり封じ込めた。
それから、数日後。
俺は、真由子と代官山のカフェバーにいた。
弥生とのことは、俺の心をかき乱していた。
その、乱れた心を。
俺は、真由子にぶつけるつもりだった。
俺は今夜、真由子を落とす。
そう決めていた。