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あの夜以来冬子は、たまに俺に電話をかけてきた。


そして俺たちは、差し障りのない会話を重ねた。


俺と冬子は、同業者ということで話は合ったが、それから先の関係には決して進まないに違いない。


俺は、そう思っていた。


そう。


陽子が、俺を裏切るまでは。



渋谷の街から、恵比寿に向けて走る。


明治通りを左折して少し入ると、そこには静かな住宅街があった。


新宿もそうだが、東京という街は面白い。


繁華街を少し外れると、信じられないくらい古い街並みが広がる。


このあたりも、まさにそんな感じだ。


俺は、そんなことを考えながら、ポルシェを広めの路地に停めた。



「……ねぇ、ウチに来ない?鍋でも一緒に食べようよ」


冬子は、さっき電話でそう言った。



冬子は、俺が陽子と終わったことを知っていた。


年末に、冬子と電話で話したときに、俺はつい冬子にその事実を告げてしまったのだ。



俺は、自分で冬子の部屋までやって来たくせに、いま頃になって少しだけ後悔していた。



めんどくさい、な…。


でも、まぁ、いいか。


俺は、そうつぶやきながら冬子の部屋へ向かった。



冬子の部屋は、2DKのマンションだった。


黒と白で統一されたインテリアが、いかにも冬子らしい。