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いや、本当は。
声をかけたというのは、ちょっと違う。
俺は隣に座った彼女のほうを向いて、ピスタチオをひとつ差し出したのだ。
彼女は、キョトンとしていた。
そして、そのあとウフフと笑った。
「それって、中身入ってないですよ。殻をくれるの?」と、彼女は笑った。
それから俺たちは、ひとつの木皿に入ったピスタチオを、一緒につまんだ。
多くの言葉を交わすわけでもなく、ただ隣に座って。
泣いている女に、いろいろ聞くもんじゃない。
そういうもんだ。
彼女は、弥生と名乗った。
俺たちは、お互いの存在をしっかりと意識したまま、ただ時間を過ごす。
今の俺は、ただそれだけで心地よかった。
俺は、左手に巻いたシルバーのROLEX OYSTER PERPETUAL DATEJUSTを見る。
針は、午前2時3分を指していた。
俺は、少しばかり眠くなってきた。
確かに、このところあまり寝ていない。
眠れないわけではない。
俺はクリスマス以来、寝ないで遊んでいたのだ。
「……マスター、そろそろ帰るよ」
隣にいる弥生のことは気になったが、俺は帰ることにした。
そう言って立ち上がろうとした俺の革ジャケットの裾を、弥生がつかんだ。
「一緒に連れて行って。お願い……」
弥生は俺の目を見つめながら、そう言った。