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この店のマスターも、実は下戸らしい。


変わったキャラだが、それのせいで俺と意気投合したというワケだ。



「いつものでいい?」


俺が返事をする前に、カウンターをグラスが滑ってきた。


中身をこぼさないように受け取るにも、コツがいる。


俺は、いつものようにグラスを右手で受け取る。


ジンジャーエールの中で、ライムが踊っていた。


もちろん、中身はこぼれていない。



マスターは、カウンターにグラスを走らせることに命をかけているらしい。


だからこの店では、ワインやカクテルもウイスキーグラスで出てくる。



俺はピスタチオをつまみながら、ジンジャーエールを飲む。


そして、陽子のことを考えていた。



陽子に、恨みはない。



裏切られて別れを決意した今でさえも、俺はそう思っていた。


俺は、本当にバカなのかもしれない。



こんな状況になっても、陽子に良く思われたかった。


だから。


陽子を、悪者にしたくなかったのだ。



陽子と過ごした3年は、本当に幸せだった。


しかし。


俺たちは、お互いにもうダメだと感じていた。



そうだとしたら。


キッカケは何であれ、キレイに別れたいではないか…。



そんなことを考えながら、俺はジンジャーエールを飲み干した。



しかし。


本当は。


俺の心は、キューブアイスのように冷えていたのだ。