12
陽子の仕事が急に忙しくなったのは、その頃からだった。
本当に仕事で忙しいのかどうかは、分からない。
しかし、俺は陽子の言うことを信じることにした。
秋になって、陽子に連絡が取れない夜が増えてきた。
「…ゴメンね。泊まり込みで片付けなくちゃいけない仕事がたくさんあるの」と、陽子は俺に逢ったときに言う。
「…あぁ。仕事だから仕方ないよ。頑張れよ。無理しないように、な」と、俺は陽子に無理して微笑みながら言う。
「仕事だから…」
その言葉で、俺は今までどれだけ陽子に心配をかけてきたことだろう。
そして、何度も約束を破った。
だから俺は、陽子に文句なんて言えなかった。
本当は、不安に思っていたとしても、だ。
そして俺は、自分の部屋で過ごす時間が増えた。
そんなとき、俺はタバコをふかしながら、ふと思うのだ。
陽子の気持ちが、良く分からない…。
俺は、今まで女の気持ちを気にしたことなどなかった。
いや。
正確にいうと、少し違う。
俺は、女の気持ちをこんな風に不安に思ったことがなかったのだ。
自分に、自信があるわけではない。
しかし、付き合っているなら、相手の気持ちを疑うことはしたくなかったからだ。
俺は、何度も女に裏切られてきた。
しかし。
いや、だからこそ。
俺は、陽子のことを盲目的に信じたかったに違いない。