111
リカのことがあってから、俺は少し考え方が変わったのだと思う。
人は、突然に死ぬ。
そして、すべてはその瞬間に消えてしまうのだ。
そうだとしたら、今という瞬間を、どう大切に生きるか?が、一番重要な気がした。
しかし。
今さえ良ければいいと、ただ虚無的に生きることが正しいとも思えなかった。
ただ、後悔だけはしたくない。
そして、自分が生きた証を残すこと。
もしかしたら俺は、そのために、この先の人生を生きるのかもしれない。
俺は漠然とだが、そんな風に考えるようになっていた。
しかし。
やはり、それでもまだ、リカが死んだ事実が悪い冗談のような気がしていた。
リカと逢った自動車学校のことも、リカの葬儀も、まるで夢の中の出来事のように感じていた。
それが現実なのは、本当は分かっていたのに…。
東京に戻る途中には、俺は当然のように大阪に行って美佐と逢う。
そして、当然のように俺は美佐を抱くのだ。
考えてみれば、そんな美佐との時間も、俺は夢のように感じているのだ。
新大阪を離れた瞬間に、俺は夢から覚める。
新幹線の窓から、紫色に色づく空を見ながら、俺は現実に戻るのだ。
112
東京に戻った俺は、そのままエミの部屋へと向かった。
エミは、課題をひとりでやりたいのと、バイトもあってか、この夏休みに短い帰省しかしなかった。
だから俺とは、広島では逢っていない。
広島でエミと逢うのは、変な話だが違和感があるのだと思う。
だから、無理をして俺たちは逢うことはしなかったのだ。
「おかえり!」と微笑むエミを玄関先で抱きしめながら、俺は思った。
この生活が、俺の現実なのだ、と。
年に数回だけ、俺は美佐に逢う。
そして時間は、きっとそんな感じで流れていくのだろう。
ずっと、そんな感じで変わらずに…。
夏が過ぎて、秋になった。
俺は、鮫洲の試験場に免許の実技試験を受けに通った。
何回か試験に落ちたあと、俺はやっと運転免許を手に入れた。
そして俺は、相変わらずエミと楽しく毎日を過ごしている。
少しずつ変化はあるが、大した変化もない、穏やかな生活だ。
美佐からは、相変わらず手紙が来ない。
たまに俺は、美佐に電話をして話をする。
美佐は、相変わらず俺のことを愛してくれている。
その事実を確認した俺は、少しホッとする。
そして俺も、美佐をまだ愛しているということを確認するのだ。
いつの間にか、12月になっていた。
1983年も、間もなく終わろうとしている。
俺は、いつもの夜のように、エミを抱きながら考えていた。