99


3年ぶりに訪れる神戸の町は、やはり美しかった。



2年前の1981年。


神戸の街は、ポートピアという博覧会で賑わっていた。


ちょうど、そのとき。


俺は、自転車で神戸を訪れた。



本当なら、美佐と逢おうと約束した旅だった。


結局、俺は美佐に逢いに行かなかった。


しかし、今となっては、そんなこともただの笑い話だ。



俺たちは、神戸の街を並んで歩く。


もちろん、俺たちの手はつながっている。



そうしながらも俺は、ふと気付く。


そう。


この街は、沙樹が暮らす街だということに。


しかし、そんなことはもう、どうでもいいことだ。


俺は、そう思い直した。



横を歩く美佐の顔を、チラッと見る。


いつも穏やかに微笑んでいる美佐が、本当に愛おしい。


そして俺は、そんな美佐を裏切っているのだ。



ポートタワーから、神戸の海を見る。


初夏の日差しが、キラキラと反射していた。



山手の方に移動して、異人館をいくつか見て回る。


どこに行っても、美佐と一緒なら楽しかった。



俺は、今日はそのまま広島に帰るつもりだ。


この前と同じように、ホテルに泊まって美佐を抱きたかったが、毎回そういうワケにもいかない。


俺は、このあとどうしようか、と考えを巡らせていた。


100


今日も俺は、美佐を抱くつもりだ。


美佐とは、たまにしか逢えない。


当然、俺は今日、美佐と愛し合いたかった。


そして、この抱きたいという感情が愛している証拠だ、と俺は思っていた。



こうなったらもう、ラブホテルに行くしかない。


しかし、神戸のどこにラブホテルがあるのだろうか?



俺は、美佐と神戸の街を歩きながら、必死でラブホテルを探していた。


もちろん、美佐に悟られないように、だ。



「ねぇ、ひろ…。なんだかそわそわしてない?」と、美佐が言った。


やはり、どうも俺の様子は怪しかったらしい。


「ふたりっきりに、なりたくて、さ」と、俺は美佐の耳元でささやく。


美佐は、頬を赤らめながら、小さい声でこう言った。


「ひろのバカッ」と。



15分後。


俺たちは、小さなラブホテルの小さな部屋の中にいた。


街のはずれにあるそのホテルの看板が、たまたま俺の目に入ったのだ。


ラッキー!



こうなったら、もう勢いでいくしかない。


俺は、もしイヤなら何もしない、と美佐を言いくるめ、ここまで来たというワケだ。


もちろん、何もしないつもりはないが。



落ち着いたフリをしていたが、初めてのラブホテルに、俺は舞い上がっていた。