97
美佐からの手紙は、俺にとって何物にも代え難い、本当に大切なものだったはずだ。
なぜなら俺は、美佐と手紙で会話をしていたのだから。
だから俺は、必要以上に美佐からの手紙が欲しかったのだ。
それなのに、今は…。
俺は、美佐に対して醒めてしまったのだろうか?
いや、しかし。
俺は、それでも美佐のことを愛していた。
俺は、自分の部屋についに電話をつけた。
しかし、美佐からの電話は、ほとんどかかってこなかった。
まぁその事実は、エミと夜を過ごすには好都合だったが。
そんな生活の中で俺は、普段は美佐のことを忘れようと心がけていた。
しかし、そうすればするほど、ふとした瞬間に美佐のことを考えていた。
皮肉なものだ。
その瞬間に、俺は確かに感じるのだ。
そう。
美佐への、決して消えない愛を…。
夏休みに入った。
軽音楽部の活動も、当分の間、休みになる。
俺は、この約1ヶ月の期間を利用して、広島に帰省することにした。
新大阪駅のホームで、美佐と待ち合わせる。
俺がホームに降りたとき、目の前には美佐が立っていた。
俺は、美佐の夏らしいファッションに見とれていた。
98
「ひろ…逢いたかったよ」と、美佐は嬉しそうに笑った。
その笑顔に、俺の心は一瞬だけ痛む。
しかし、いまさらそう感じても仕方ないのだ。
「俺も逢いたかった。すげー逢いたかった…」
俺は、自分でその言葉を噛みしめるようにつぶやいた。
俺は美佐の手を取って、国鉄の在来線ホームへと向かう。
その日、神戸に行こう、と俺たちは決めていた。
神戸に向かう電車は、思ったよりも空いていた。
俺と美佐は、車両の一番端のボックス席に二人で並んで座った。
この場所だと、他の乗客からはほとんど見えない。
俺は、美佐の顔をじっと見つめる。
やっぱり、美佐はかわいい。
そして俺は、今強く感じていた。
たとえ、手紙が来なくても。
たとえ、電話がかかってこなくても。
俺は、美佐を失いたくはない。
絶対に…。
俺は、ズルい男だ。
美佐に知られなければ、それで良いのだ。
知られなければ、何もないのと同じなのだ。
俺は、そう自分を納得させた。
とにかく。
今は、そばにいる美佐だけを見つめていよう。
俺は、穏やかに微笑みながら、美佐を優しく見つめる。
俺の視線に気付いた美佐が、俺に優しく微笑みかける。
俺は、美佐の手をもう一度優しく握っていた。