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美佐からの手紙は、俺にとって何物にも代え難い、本当に大切なものだったはずだ。


なぜなら俺は、美佐と手紙で会話をしていたのだから。


だから俺は、必要以上に美佐からの手紙が欲しかったのだ。


それなのに、今は…。



俺は、美佐に対して醒めてしまったのだろうか?


いや、しかし。


俺は、それでも美佐のことを愛していた。



俺は、自分の部屋についに電話をつけた。


しかし、美佐からの電話は、ほとんどかかってこなかった。


まぁその事実は、エミと夜を過ごすには好都合だったが。



そんな生活の中で俺は、普段は美佐のことを忘れようと心がけていた。


しかし、そうすればするほど、ふとした瞬間に美佐のことを考えていた。



皮肉なものだ。


その瞬間に、俺は確かに感じるのだ。


そう。


美佐への、決して消えない愛を…。



夏休みに入った。


軽音楽部の活動も、当分の間、休みになる。


俺は、この約1ヶ月の期間を利用して、広島に帰省することにした。



新大阪駅のホームで、美佐と待ち合わせる。


俺がホームに降りたとき、目の前には美佐が立っていた。


俺は、美佐の夏らしいファッションに見とれていた。


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「ひろ…逢いたかったよ」と、美佐は嬉しそうに笑った。


その笑顔に、俺の心は一瞬だけ痛む。


しかし、いまさらそう感じても仕方ないのだ。



「俺も逢いたかった。すげー逢いたかった…」


俺は、自分でその言葉を噛みしめるようにつぶやいた。



俺は美佐の手を取って、国鉄の在来線ホームへと向かう。


その日、神戸に行こう、と俺たちは決めていた。



神戸に向かう電車は、思ったよりも空いていた。


俺と美佐は、車両の一番端のボックス席に二人で並んで座った。


この場所だと、他の乗客からはほとんど見えない。



俺は、美佐の顔をじっと見つめる。


やっぱり、美佐はかわいい。


そして俺は、今強く感じていた。


たとえ、手紙が来なくても。


たとえ、電話がかかってこなくても。


俺は、美佐を失いたくはない。


絶対に…。



俺は、ズルい男だ。


美佐に知られなければ、それで良いのだ。


知られなければ、何もないのと同じなのだ。


俺は、そう自分を納得させた。



とにかく。


今は、そばにいる美佐だけを見つめていよう。


俺は、穏やかに微笑みながら、美佐を優しく見つめる。


俺の視線に気付いた美佐が、俺に優しく微笑みかける。


俺は、美佐の手をもう一度優しく握っていた。