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東京に戻った俺は、また忙しい日々を送る。
相変わらず、美佐は手紙を書いてこない。
たまに、俺のほうから電話して話をする。
そんな感じで、時間が過ぎて行く。
軽音楽部の仲間と一緒に過ごす時間が、俺の生活のほとんどとなっていた。
そして、エミと一緒にいる時間は、必然的にほとんどなくなっていた。
いや、本当のことを言えば…。
俺は、エミを意識的に避けたのだ。
東京での生活は、美佐がいない生活だ。
付き合っていても、いなくても、実はこの日常には関係ないんじゃないか、と思う。
美佐と逢う瞬間は、日常ではない。
俺は、そんな気がし始めていた。
俺が、東京で何をしていても。
美佐が、大阪で何をしていても。
お互いに、何も分からない。
ただ、俺は盲目的に美佐のことを信じることが出来ていた。
美佐は、俺を裏切らない。
俺は、そう信じることで、美佐との関係を保っていた。
相変わらず、美佐は手紙を書いてこない。
いや、それでも大丈夫だ…。
本当のことを言えば、俺は寂しくて仕方なかった。
苦しくて、仕方なかった。
だから。
普段は、なるべく美佐のことを考えないようにしていた。
そんなある日、タケシが俺の部屋に遊びに来た。
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「よう、久しぶり!」
そう言って現れたタケシは、全身黒ずくめだった。
DCブランドで決めたタケシは、ずいぶん垢抜けて見えた。
俺とタケシは、ウォークマンを小さなスピーカーにつないで、カセットテープを聞く。
ジョニールイス&チャーだ。
スカスカの音が、物悲しい。
ちゃんとしたステレオを買わなきゃなぁ…と、俺は思った。
せっかくタケシが持って来た、海賊版のLPレコードも聞けやしない。
ツェッペリンのロンドンのライブかぁ…聞きたかったな…。
そのとき俺は、ステレオを買うことに決めた。
タケシとは、バカ話で盛り上がった。
2時間も経つと、だんだんとマジメな話になる。
そんなもんだ。
「…美雪に逢いたいなぁ…」
タケシが、ポツリとつぶやいた。
えっ?
遠距離はしないって、タケシは言っていたのに。
タケシが美雪ちゃんと、遠距離恋愛をしている。
それは、俺にとって意外であり、嬉しい事実だった。
ふと見ると、タケシは涙ぐんでいた。
つられて俺も、少しだけ涙が出た。
「寂しいよな…美雪に逢いたいな…」
俺は、そんなタケシの姿を見るのは、初めてだった。
美佐に逢いたいな…。
俺は、そのとき心の中で、そうつぶやいた。