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俺は、1ヶ月ぶりに広島に帰った。


ホームシックになっていたワケではないが、やはり実家は居心地がいい。


やることもなく、誰に逢うでもなく、のんびりと過ごす。


下山も勉強が忙しいだろうし、もう有紀に逢う理由もない。



それよりも、今は美佐だ。


俺は、東京に戻る途中、大阪で一泊することにした。


以前、受験のときに泊まったホテルを予約する。


ゴールデンウィークだが、うまく部屋が取れた。



予約したのは、シングルの部屋だ。


美佐と夜を過ごしたいが、それは無理な話だ。


そこそこ良いホテルだから、昼間に美佐を連れ込んでも大丈夫だろう。


そこで、俺は美佐を抱く…。


そう決めていた。



しかし、俺にはそのときの具体的なイメージが出来なかった。


頭のなかで、何度もシミュレーションをしてみる。


しかし…。


キスから先は、未知の領域なのだ。


まぁ、なんとかなるだろう。


たぶん。


きっと。



俺は、美佐に電話する。


「…今回は、必ずホームで逢おう」と、俺は言った。


まずは、そこからだ。



そして俺は、短い帰郷を終え、大阪に向かう。


新幹線の指定席に腰掛け、目を閉じる。


そして、俺を乗せた新幹線は、ゆっくりと動き出した。


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午後0時すぎ。


俺を乗せた新幹線は、新大阪駅に滑りこんだ。



果たして美佐は、ホームにいるだろうか?


俺は、不安を抱えながらホームに降りる。


「こんにちは、ひろ」


美佐の声だ。



売店の脇から、美佐が姿を現す。


優しく微笑む美佐の顔を見た俺は、ホッとしていた。


やっとホームで、ちゃんと逢えた…。


今日は、すべてがうまくいく。


そんな気がした。



今日の美佐も、とても可愛い。


美佐は、薄いブルーのミニスカートに、白いシャツとジャケットを合わせていた。


今日の俺は、シンプルに白いシャツにジーパンだ。


まぁ、ふたりのバランスは悪くないだろう。



俺たちは、いつものように手をつないで歩き出した。


国鉄の新大阪駅を出て、軽い食事を取る。



俺は、間違いなく緊張していた。


赤いコンバースオールスターのバッグの中味が、気になって仕方ない。


そこには、あの土手で買ったコンドームが入っていた。



今日は、すべてうまくいく。


美佐だって、さすがに今日は覚悟しているはずだ。



ゴールデンウィークの始めと終わり。


ホントなら、始めに逢う予定を終わりに変えた。


そうしたのは、美佐だ。



タイミングを合わせている…。


俺は、美佐の覚悟を感じていた。