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高校に入ってからずっと、俺は彼女を作らなかった。
もちろん仲が良い女の子はたくさんいたが、そんな気になれなかったのだ。
美佐からの連絡が途絶えて、1年が経っていた。
俺は、美佐がそんな消え方をしたせいもあって、そんな気になれないのだと思っていた。
しかし。
本当は、美佐以上に好きになれそうな女に、俺はまだ出逢えていなかったのだ。
そのころの俺は、クラスに気になる女の子がいた。
それが、山下沙樹だった。
しかし、だから付き合いたいとか、そんなことまでは考えていなかった。
そんな、ある日の放課後。
俺は、クラスメイトの友美に呼び出された。
「ネェ。歩ちゃんのことって、どう思ってる?」
「いや、どうって…別に…」
俺は、予想していた名前を聞いて、少しがっかりしていた。
俺は歩の気持ちに、薄々は気付いていた。
しかし…。
歩はいい子だが、付き合いたいとは思えなかったのだ。
「…そっか。じゃあ、沙樹ちゃんのことは?」
えっ?
俺は、その意外な名前にマジで驚いていた。
「沙樹ちゃんも、キミのこと好きみたいだよ…」
まさか…。
クラスでもNo.1の人気があり、ライバルも多いあの沙樹が俺を?
俺は、そのときから急激に沙樹のことを意識し始めたのだ。
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そんなときに出逢ったのが、エミだった。
スレンダーな体と、柔らかい髪。
ハスキーだが、甘く高音が伸びる不思議な声。
そしてエミは、性格も良かった。
少し美佐に似ている…。
俺は、初めてエミに逢ったときから、そう感じていた。
エミと俺は、不思議と気が合った。
音楽の趣味やファッションのことなど、エミとは話が弾んだ。
エミのことが好きになりそうだな…と、俺は感じていた。
しかし。
俺は、あえてエミを好きにならないようにしていたのだ。
俺はそのときまだ、思いっきり美佐のことを引きずっていた。
だから。
そんな美佐に似ているエミを、好きになるわけにはいかない…。
俺は、そう決めていた。
俺はまだ、美佐の幻を追っていたのだ。
だから。
意地でも、美佐に似た女を愛することはしない。
そんな気持ちもあって、美佐とは全く違うタイプの沙樹に、俺は惹かれていったのかもしれない。
バンド活動を続けるうちに、俺はエミの気持ちの変化に気付いていた。
エミの俺に対する気持ちは、単なる好意だ、と思っていた。
しかし…。
1981年の夏が終わり、季節は秋になろうとしていた。