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俺は、美佐に電話をしたかった。


しかし…。



美佐は勉強が出来たが、家庭の方針もあって進学せずに就職していた。


美佐は財閥系の会社で、コンピューターのシステムに関する仕事をすることになったらしい。


仕事を始めたばかりの美佐に電話するのは、さすがに気が引けた。


だから俺は、美佐に手紙を書くことにしたのだ。



俺は、今の気持ちを素直に書く。


真夜中に書いた手紙は翌朝読み直して出せ、という。


しかし俺は、真夜中に書いた手紙、しかもかなり熱いラブレターを、読み返しもせずに出した。



俺が美佐に出す手紙は、会話の代わりだ。


そのとき感じた感情を、口にする代わりに文字にする。


だから俺にとって、美佐との手紙のやりとりは、とても大事なものだったのだ。



入学式の前日に、俺は美佐に電話をかけた。


美佐の声が聞きたくて、どうしようもなくなったからだ。



俺のシチズンアナログクォーツの針は、午後8時42分を指していた。


俺は、環七のそばにある電話ボックスに入る。


黄色い公衆電話に100円玉をジャラジャラ入れて、美佐の家の番号を押す。


呼び出し音を聞きながら、俺は美佐の笑顔を思い出していた。



数コールで、電話はつながった。


「もしもし、若原です…」


美佐の声だ。


そのとき俺は、たった一週間ぶりだというのに、美佐の声になぜか懐かしさを感じていた。


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俺と美佐は、お互いに始まった新しい生活のことを話す。


美佐は、楽しそうに仕事の話をする。


しかし俺は、美佐の仕事の話を聞いてもなんだかピンと来なかった。



就職か…。


俺にとっては、早くても4年先の話だ。


美佐ってすごいな、と俺は思った。



俺のほうは、まだ学校も始まっていないので、これといった面白い話があるワケではない。


それに、美佐は家族が近くにいる環境で電話しているらしく、どうも堅い感じで話をしていた。


イマイチ話が盛り上がらない…。


とはいえ、このところ話すことに飢えていた俺は、それでもとても楽しかったが。



美佐の声を聞いているだけで、心が休まる。


それだけで、寂しさが消えていく。



「美佐、大好きだよ。おまえは?…今は言えないか…」


「…うんっ。また今度、ね」と、美佐は恥ずかしそうに、困ったように答える。


「今度逢うときは、たっぷり聞かせてもらうからね」と、俺は笑いながら言った。



電話を切って、電話ボックスの外に出る。


そんなに長い時間話したわけではないが、10枚近くの100円玉が消えていた。


電話代も、バカにならないな…。


でもそれは、まぁいい。



環七を走る車の赤いテールランプが、俺の寂しさを再び呼び起こした。


早く、美佐に逢いたい。


そして、今度こそ…。