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それから俺たちは、会場のお好み焼き屋にゆっくりと歩きながら向かった。


美佐の当時の通学路をいま、一緒に歩く。


俺はまるで、中学生のあの頃に戻ったような気がしていた。


しかし、俺の隣にいるのは、あの頃より確実にいい女になった美佐だ。


俺は、そのことが誇らしかった。



同窓会の会場には、懐かしい顔が並んでいた。


「久しぶり~元気だった?」と、お互いが声を掛け合っている。


ふたりで現れた俺たちを、みんなが囲む。


「お前たち、まだ付き合ってたの?」と、みんなから冷やかされる。


「まあね」と、俺はとぼけておいた。


昔悪かったヤツほど落ち着いていて、そんな会話も微笑みながら聞いていた。


美佐も、女の子たちと楽しそうに話している。



思いのほか楽しかった同窓会は、あっという間に終わった。


そして俺と美佐は、急いで広島駅にバスで向かった。



「もっとみんなといたかったな…もちろんひろとも…」と、美佐は少し寂しそうに言った。


「うん。俺には、またすぐ逢えるよ」


俺は、そう言いながら、美佐の髪を優しくなでた。



美佐は、やはり少し寂しそうに微笑む。


今度美佐と逢えるのは、俺が東京に行く日だ。


あと、10日。


そしてその日が、俺と美佐の遠距離恋愛の始まりの日となるのだ。


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広島駅の新幹線ホームで、美佐を見送る。


閉じた新幹線のドアの向こうで、美佐の唇がこう動いた。


「大好きだよ、ひろ」と。



俺はいま、確かに感じていた。


俺の気持ちが、間違いなく美佐だけに向かっていることを。


そのとき俺は、確かにそう感じていたのだ。



残り少ない広島での日々を、俺はバタバタと忙しく過ごした。


そして、1983年3月31日。


俺は、ついに東京に向けて旅立った。



午前9時の広島駅新幹線ホーム。


そこには、俺を見送るお袋がいた。


本当は、駅まで来て見送られるのは気恥ずかしかったが、さすがに今日はダメとは言えなかったのだ。



「じゃあ、頑張って!」


お袋は、それだけ言って、俺を笑顔で送り出す。


新幹線のドアが閉まる。


手を振るお袋は、泣いていた…。



そのとき俺は、初めて泣いているお袋を見たのだ。


お袋は、いつも明るくて、何があっても子供には涙を見せない人だったのに…。


俺は、少し動揺しながらも、笑顔で見送られることにした。


お袋の姿が見えなくなったとき、少しだけ涙が出た。



それから、2時間後。


俺は、新大阪駅のホームに独りで立っていた。


美佐はまた、なぜかホームにいなかったのだ。