53

次の日。


俺は、まだ眠い目をこすりながら朝9時前に目を覚ました。



待ち合わせまで、あと2時間。


陳腐な言葉で言えば、俺の胸は期待と不安で高鳴っていた。



俺は、最後にちゃんと沙樹と向き合ってみようと思った。


というか、ちゃんと向き合おうという気に、やっとなれたのだ。



リーバイス502のGパンに、同じくリーバイスのGジャンを合わせる。


ニューバランスの青いジョギングシューズを履きながら、やはり俺は緊張していた。



紙屋町バスセンター行きのバスは、白地に緑色で、通称青バスと呼ばれていた。


その日は、なぜかその青バスがなかなか来なかった。


かなり余裕をみて家を出たつもりだったが、バスセンターに到着したとき、待ち合わせの11時を少し回っていた。


俺は焦りながら、待ち合わせ場所の、そごうの正面玄関に急いだ。



…いない。


沙樹は、待ち合わせ場所にいなかった。


時間を確認する。


11時12分か…。


沙樹は、まだ来ていないのだろうか?


俺は、のんびりと沙樹を待つことにした。



待ち合わせのとき、相手が来たときのリアクションは人それぞれだ。


俺は、その日。


何十組というカップルの、そんなリアクションを見るハメになった。


そう。


その日、ついに沙樹は来なかったのだ。


54

3月とはいえ、初旬のその日は肌寒かった。


こんな薄着で失敗だったな…。


俺は、そごうの玄関外で寒さに震えながら、じっと沙樹を待ち続けた。



すでに時計の針は、午後2時を回っている。


待ち合わせの時間を、すでに3時間も過ぎていた。


俺は、そのとき間違いなく意地になっていたのだ。



どうして来ないんだ、沙樹…?


そう思いながらも、俺はそのとき分かっていたのかもしれない。


沙樹の家に電話して、いったい何が起こっているのか確認したほうがいいことは分かっていた。


しかし…。


どうしても俺は、そんな気になれなかったのだ。



俺は沙樹が結局、俺に逢いたくなくなったのだと気付いていた。


それならば沙樹は、なぜ俺を呼び出そうとしたのだろう…?


結局は、嫌がらせだったのだろうか…?



寒い…。


それは、気温の低さのせいだけではなかった。


心が、とても寒かったのだ。



沙樹のことなんて、もうどうでもいいはずだった。


しかし、本当はそうではなかった。


そのことに気付いたからこそ俺は、ちゃんと沙樹とケリをつけようと思ったのだ。


それなのに、沙樹はまた俺を裏切った。



「あれっ?ひろ、どうしたの?」


突然声を掛けられた俺は、ハッと我にかえる。


そこには、有紀が立っていた。