45


そんなとき、突然タケシがいなくなった。


最近、親と揉めているとは言っていたが…。



確かに、俺も最近、親と揉め気味ではある。


俺とタケシの共通点は、春から東京に行くということだ。


つまり、親が余計な心配をして、いろいろと口を出してくる。


それが、揉める原因だった。



親の気持ちも分からないわけではないが、正直ウザったい。


タケシの性格ならば、なおさらだろう。


タケシは、もう3日も行方が分からない。


俺には心あたりがないわけじゃないが、さすがにちょっと心配だった。



俺は、3月末に東京に行くことを決めていた。


その前に、広島で最後のライブをやりたい。


だから、タケシと早く話がしたかった。


ライブハウスも押さえた。


下村も、すでに浪人の覚悟を決めたようで、ライブをやる気マンマンだ。


残念ながら、バンドのメンバー3人一緒に東京に出るのは無理そうだが、それはそれで仕方のないことだ。


それに。


もし、3人で東京に出たとしても、俺はまた一緒にバンドをやるつもりはなかったのだ。


それぞれに新しい道を歩かなければ、東京に出る意味がない。


俺たち3人は、3人とも、もちろんそう思っていたのだ。



俺は、タケシの彼女の美雪ちゃんに話を聞くために、2年のクラスに顔を出した。


美雪ちゃんは、何か知っている。


俺は、そう確信していた。


46


おっ、いたいた。


俺は、廊下から教室にいる美雪ちゃんに声をかけた。


俺を見た美雪ちゃんの表情が、サッと変わる。


やはり、この子は何かを知っている。


「ねぇ、美雪ちゃんさぁ…。タケシが行方不明なの聞いてる?」と、俺は聞いた。


「…うん。えーっと、うん。どこに行ったのかなぁ?みゆも心配してるの」



美雪ちゃんは、ちょっと動揺していた。


しかし、あんまりタケシを心配してるようには見えない。



俺は、カマをかけることにした。


「あのさぁ、タケシに伝えてほしいんだよね、ライブの件。スケジュールの最終確信したくてさ」と俺は、小声で言った。


「えっ?先輩、知ってたの?」と、美雪ちゃんは驚いた。



やっぱり…。


タケシは、やはり美雪ちゃんといたのだ。


美雪ちゃんは、はっきりと教えてくれなかったが、タケシはなんと!美雪ちゃんが両親と一緒に住んでいる家に、息をひそめて潜んでいるらしい。



やれやれ。


「あのさぁ、ちょっとタケシに会いに行っていいかな?」と、俺は美雪ちゃんに頼んだ。


大事になる前に解決しなければ!


俺は、タケシに会って出てくるように説得することに決めた。


そしてその日、俺と下村は卒業ライブの打ち合わせと称して、美雪ちゃんの家に乗り込んだのだ。