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そんなとき、突然タケシがいなくなった。
最近、親と揉めているとは言っていたが…。
確かに、俺も最近、親と揉め気味ではある。
俺とタケシの共通点は、春から東京に行くということだ。
つまり、親が余計な心配をして、いろいろと口を出してくる。
それが、揉める原因だった。
親の気持ちも分からないわけではないが、正直ウザったい。
タケシの性格ならば、なおさらだろう。
タケシは、もう3日も行方が分からない。
俺には心あたりがないわけじゃないが、さすがにちょっと心配だった。
俺は、3月末に東京に行くことを決めていた。
その前に、広島で最後のライブをやりたい。
だから、タケシと早く話がしたかった。
ライブハウスも押さえた。
下村も、すでに浪人の覚悟を決めたようで、ライブをやる気マンマンだ。
残念ながら、バンドのメンバー3人一緒に東京に出るのは無理そうだが、それはそれで仕方のないことだ。
それに。
もし、3人で東京に出たとしても、俺はまた一緒にバンドをやるつもりはなかったのだ。
それぞれに新しい道を歩かなければ、東京に出る意味がない。
俺たち3人は、3人とも、もちろんそう思っていたのだ。
俺は、タケシの彼女の美雪ちゃんに話を聞くために、2年のクラスに顔を出した。
美雪ちゃんは、何か知っている。
俺は、そう確信していた。
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おっ、いたいた。
俺は、廊下から教室にいる美雪ちゃんに声をかけた。
俺を見た美雪ちゃんの表情が、サッと変わる。
やはり、この子は何かを知っている。
「ねぇ、美雪ちゃんさぁ…。タケシが行方不明なの聞いてる?」と、俺は聞いた。
「…うん。えーっと、うん。どこに行ったのかなぁ?みゆも心配してるの」
美雪ちゃんは、ちょっと動揺していた。
しかし、あんまりタケシを心配してるようには見えない。
俺は、カマをかけることにした。
「あのさぁ、タケシに伝えてほしいんだよね、ライブの件。スケジュールの最終確信したくてさ」と俺は、小声で言った。
「えっ?先輩、知ってたの?」と、美雪ちゃんは驚いた。
やっぱり…。
タケシは、やはり美雪ちゃんといたのだ。
美雪ちゃんは、はっきりと教えてくれなかったが、タケシはなんと!美雪ちゃんが両親と一緒に住んでいる家に、息をひそめて潜んでいるらしい。
やれやれ。
「あのさぁ、ちょっとタケシに会いに行っていいかな?」と、俺は美雪ちゃんに頼んだ。
大事になる前に解決しなければ!
俺は、タケシに会って出てくるように説得することに決めた。
そしてその日、俺と下村は卒業ライブの打ち合わせと称して、美雪ちゃんの家に乗り込んだのだ。