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「もしもし…あぁ、俺。合格(うか)ったよ。うん。サンキュ。これでまた、一緒に東京だな…」
俺が電話をかけた相手は、俺のバンドでギターを弾いているタケシだった。
タケシは、東京の音楽系の専門学校に行くことが決まっていた。
俺とタケシは、高校に入って以来の親友だった。
同じクラスになったことはないが、なぜか気が合った。
タケシは、かなりの不良で、他の奴が言うことは聞かなかったが、なぜか俺の言うことは聞いた。
どっちかというと真面目な俺とタケシの組み合わせは、他のやつから見たら、たいそう不思議な組み合わせに見えるらしい。
「で、美雪ちゃんとはどうするんだ?」と、俺はタケシに聞いた。
美雪ちゃんは、もちろんタケシの彼女だ。
ひとつ年下の美雪ちゃんは、ぽっちゃりとして雰囲気の柔らかい、かわいい子だ。
軽音の後輩だった美雪ちゃんは、部活みんなのアイドルだった。
そんな美雪ちゃんがタケシと付き合うというのも意外だったが、もうかれこれ1年近くもふたりは続いていた。
「やっぱり、別れることになりそうだな…最近ウザいし…」と、タケシは言った。
どいつもこいつも…。
もうすぐ、春。
俺も、俺の周りも、いろんなことが大きく動こうとしていた。
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次の日、学校に行くと下村がいた。
昨日、下村に電話しようと思ったが、有紀のこともあって、なんとなく電話出来なかったのだ。
だから、俺の合格も下村に伝えていないし、俺は下村が土手を走ったのかも聞いていなかった。
俺は、有紀とのことは、なかったものと考えるようにして、下村に接することにした。
俺の合格を、下村に伝える。
下村は、喜んでくれたが、どうも元気がない。
下村は、まだ行く学校が決まっていなかった。
しかも、有紀ともダメらしいし…。
自分ばかりが浮かれているわけにはいかないんだ、と俺は思った。
「そうそう。それでさぁ、俺、有紀とやったから」と、下村は小声で言った。
「そうなんだ!良かったじゃん」と、俺は動揺を隠して言った。
やっぱり…。
俺は、そうだと思っていたが、はっきり事実を告げられると、さすがに複雑な気持ちだった。
下村は嬉しそうに、ニコニコ笑ったが、その笑顔は、やはり寂しそうに見えた。
有紀は、学校に来ていないようだ。
やはり俺とも、下村とも、顔を合わせづらいのだろうか?
東京に行くまでには有紀との関係も、すっきりさせたい。
出来れば、沙樹とも…。
そんな微妙な感じで、俺の高校生活は終わろうとしていた。