31

広島に帰った俺は、さっそく下村に呼び出された。


次の日、俺と下村は並木道りにある喫茶店にいた。


「なんだよ、話って。有紀のことか?」と、俺は下村に聞いた。



下村の話を総合すると、こうだ。


最近、有紀とうまくいっていない。


別れるなら、それはそれで仕方ないと思うが、その前に有紀を抱きたい。


なるほど…。


でも俺は、下村はそれをきっかけに、有紀との関係を元に戻したいのだ、と気づいていた。


俺は、複雑な気持ちで下村の話を聞く。


そして、そのとき俺は、有紀と過ごした日々を思い出していたのだ。



沙樹にフラれたあと、俺の心を癒やしてくれたのは有紀だった。


俺は沙樹と別れたあと、全然平気な顔をしていたつもりだったが、有紀にはかなり痛々しく見えたらしい。


俺がひとりでいると、有紀はいつも近寄ってきてそばにいてくれた。


そしてある時は静かに、ある時は賑やかに、俺の尖った気持ちを癒やしてくれたのだ。



俺と有紀は、不思議な関係だった。


付き合ってもおかしくなかったが、付き合うことはなかった。


しかし。


俺は、有紀のことが間違いなく好きだった。


そして、今。


親友の下村が、その有紀を抱こうとしている。


「…それでさ、ちょっと付き合って欲しいんだよ、お前に…」と、下村は小声で言った。


32

25分後。


俺と下村は、太田川放水路の土手にいた。


俺は、パナソニック・エスプレッソを大幅にカスタマイズした自転車で出かけていた。


しかし、下村はママチャリをカスタマイズした自転車に乗って来ていたので、俺たちはここまでゆっくりと走ってきたわけだ。


寒い。


2月の土手の風は、激しく冷たかった。


なぜ男ふたりが、寒風吹きすさぶ土手に現れたのか?


それには、もちろん理由があった。


そこには、自動販売機があったからだ。



その自販機は、近くの高校生なら必ず知っていた。


そうそれは、コンドームの自販機だった。


薬局に買いに行くという選択肢は、俺たち高校生には最初からなかった。


下村は、辺りを伺いながら100円玉を投入していく。


俺は、その見張り役といった感じだ。


ガチャン、という音と共に、1ダースのそれが姿を現した。


「うぉーっ!」と、俺たちは歓喜の声を上げる。


そうしながらも俺は、複雑な気持ちだった。



1ダースのコンドームは、6こずつに分けられ、俺と下村の手に渡った。


有紀のことは考えないようにしよう、と俺は思った。


大人には、考えないようにしなければならないことがたくさんある。


その日俺は、そんなことを学んだのだ。