19

1982年のクリスマスは、あっさりと終わった。


美佐と過ごせれば良かったのだが、それは無理というものだ。


美佐からは、ワーゲンのイラストが入ったミラーが、クリスマスプレゼントとして届いた。


俺は美佐に、美佐が好きなコバルトブルーの暖かそうなマフラーを贈った。


俺と美佐のクリスマスは、ただそれだけのクリスマスだった。



ほかに何かあったかというと、いつものようにクリスマスライブをやったくらいだ。


学校の体育館で、軽音の後輩がやるライブに出た。


3年生が出ること自体、あまり前例がないが、出たかったのだから仕方がない。


半分力技で出たわけだが、いつものように盛り上がったので、問題はないだろう。



「…今日は、2曲だけやります。ROKKETSのJukeBoxerとDeadGuitar!」


体育館にそこそこ入った客が、一斉に俺に注目する。


そのとき俺は、ステージから沙樹の姿を見つけた。


俺と沙樹の視線が、久しぶりにぶつかる。


こんなことでもないと、もう沙樹と目を合わせることもない…。


俺はまだ沙樹とのことを、思いっきり引きずっていたのだ。



俺の気持ちは、確実に美佐に向かっている。


しかし…。


なぜ沙樹が、俺から離れて行ったのか?


そのことが、別れて1年近くたった今でも、俺の心に引っかかっていたのだ。


20

1983年は、静かに明けた。


しかし俺にとって今年は、大きな転機となる年だ。



俺は、東京の大学へ行く。


そして、初めての独り暮らしを始めるのだ…。



1月29日に、なった。


俺は、18歳の誕生日を迎えたわけだ。


ちょうど1年前の今日、俺と沙樹は雪の降る日に教室でキスをした。



俺は未だに、そんなことを思い出している。


なんとも、情けない話だ。


しかし、これがいまの俺の現実だった。



美佐からは、俺の好きなエンジ色の、手編みのマフラーが届いた。


手編みか…。


美佐からのプレゼントは、何を貰っても嬉しい。


しかし。


どうして女の子は、手編みが好きなのだろう。


ひと編みひと編み、情念が編み込まれているような気がして、正直俺は手編みが苦手だ。


もちろんこんなことは、美佐には口が裂けても言えないが。



そう考えると、沙樹が送って来たセーターは、とてつもなく恐ろしい代物だった。


別れるのが、分かっているのに…。


沙樹は、どんな気持ちであのセーターを編んだのだろう?


俺は1年経っても、まだまだ沙樹の呪縛から逃れられないでいたのだ。



軽音やクラスの女の子数人からも、誕生日プレゼントをもらった。


義理なのか、俺に好意があるのか?


いずれにしても、悪い気はしなかったが。